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電気自動車の規制

Electric Vehicles

インドネシアには、EVバッテリーの原料となるニッケルが豊富に埋蔵されており、EV化は政府、企業等が一体となって進めているインドネシア最大プロジェクトの一つです。 直近では、インドネシアニッケル産業が世界的な電気自動車用部品とバッテリーサプライチェーンへの参画を目指す。という政府の公約の基、大手鉱山会社によるニッケル産業へのビジネス拡大が著しく進んでいます。
また、公約にはその他、インドネシアで開発が進んでいるEV充電インフラへの投資等にも触れられています。

国際エネルギー機関 (IEA) の報告書によると、電気自動車 (「EV」)は、世界的には中国による導入が最も早く、次に欧州と米国が続いているとされています。排出量削減や新たな産業・雇用の創出という環境、経済的理由から、EV 産業の発展を目指す国が多くあり、2009 年以降の EV 販売の増加は、経済的理由から政府主導の政策支援に起因する場合がほとんどです。 EV産業を発展させている国では、政府が主導し消費者と供給者との両面で様々な導入支援策を実施しています。今回は、世界各国のEV政策とインドネシアのEV政策を比較して、法律的観点からインドネシアにおけるEV政策の動向に関してまとめました。

まず、世界各国のEV政策に関してです。中国では、政府がEV生産を推進すると同時に、消費者のEV購入・使用の際の様々な補助政策があります。中国における補助政策は主に以下の 4 つ①政府補助金、②自動車取得税の免除、③自動車走行税の免除、④自動車保険の割引です。 2 つ目の自動車取得税の免除では、車両登録手数料の免除、EV専用の登録チャネルの創設、EV専用のナンバー プレート作成等によるEV の登録手続きの簡素化があります。 ③自動車走行税に関しては、EVユーザー向けに、走行制限なし、駐車場割引、道路・橋の通行料の免除、車検費用の免除などが含まれています。これらに加えて、充電インフラ整備に対する補助金とEVユーザーへの充電割引に関する方針も定められています。

2 番目に大きな EV 市場として、EU 諸国でも様々な政策を実施しています。ノルウェーでは、政府が自動車取得税、付加価値税(VAT) の免除、自動車登録税の 80% 軽減を行っています。この政策により、EVの購入コストが総じて50%削減され、さらに、2011 年以降に建設されたEV充電器の数は標準充電器が約 1,800 台、急速充電器が 70 台と、急速に EV インフラを設置してきています。また、ベルギー、デンマーク、スペイン、ポルトガルなどの欧州の一部の国では、EV の普及のために特定の事業者に対して直接補助金を導入しています。特にデンマークでは、自動車税環境性能割による税金の割引政策が施行され、さらに、EVの仕入税額控除 20% を決定しています。アイスランドでも、政府が EV 購入者・所有者に対して、自動車取得税、付加価値税 (VAT)、年間の自動車所有税を免除し、国を挙げて充電設備を普及していく方針も定めています。

中国、欧州では国家が主導し、EV普及に注力していますが、インドネシアでも他国に遅れる形でEV普及に向けて政策を実施しています。特にエネルギー鉱物資源省(「MEMR」)を中心にして、2035年には国内のバイク販売台数(目標1500万台)の30%うち30%は電動バイクを目指すとしています。これはインドネシアの「国が決定する貢献」(「NDC」)における2030年までに二酸化炭素排出量の29%を削減するという目標に準拠するもので、気候変動を抑えるため、インドネシアの取り組みを具体化したものです。州電力会社 (Perusahaan Listrik Negara、「PLN」) (Persero) はこの目標の実現のため、電力施設の設立に注力し、公共電気自動車用充電ステーション (Stasiun Pengisian Kendaraan Listrik Umum、「SPKLU」) や、公共電気自動車バッテリー交換所 (Stasiun Penukaran Baterai Kendaraan Listrik Umum、「SPBKLU」)、家庭用充電ステーションの設立等、電力インフラを提供することにより、電気自動車の普及を目指しています。この計画を円滑に進めるため、MEMR は電気自動車の充電インフラに関する許可取得に向けても動いています。

Battery Electric Vehicles in Indonesia

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電気自動車充電インフラの規制

電気自動車の充電設備は、道路交通に関するバッテリー式電気自動車加速事業2019 年大統領規則第 55 号 (「PR 55/2019」) にて規定されています。 PR 55/2019 は、パリ協定の目標の実現に向けて2019年に規定されたものです。国際エネルギー機関は、EV は排出量が少なく、化石燃料への依存度も低いため、持続可能な交通移動にとって不可欠であると公表しており、 内燃機関車に比べ、エネルギー効率が高く、その他、環境負荷が低い、走行性能が高い等の点で推奨されています。

PR 55/2019 に含まれる要点
1. 施設付与
1). 充電設備
2). バッテリー交換設備
2. 充電ステーション
充電ステーションは 100%外資企業にも認められています。
3. 環境保護
バッテリー廃棄物は、特定のライセンスを持つバッテリー電気自動車(「BEV」)専門のインドネシア国内企業を通じて処理する必要があります。
4. 建築請負業者
1). 国有企業 (「Badan Usaha Milik Negara」、「BUMN」)
2). EV普及初期段階では PLN(国営電力会社) が請負業者に割り当てられることもあり、PLNが BUMN または他の事業体と協業することもある。また、電力を販売する事業者は、以下の電力供給条件を満たす必要があります。
a. 事業所を所有している。
b. BUMN または他の国有事業体と協業している。
3.) 設置可能場所
• 公共燃料ポンプステーション (「SPBU」)
• ガスポンプステーション (「SPBG」)
• 中央・地方官庁
• ショッピングセンター
• 道路沿いの公共駐車場
• 自家用電力用の住宅
上記の通り、充電インフラへの投資を増やすには、政府と関連業界が協力し、公共充電ステーションやサービスステーション等とのネットワーク構築によるインフラサポートも必要です。インドネシアでのEVの普及は、未だ初期段階ですが、経済と環境に好影響を与える可能性は大きく、政府関係者、国有企業、民間部門間で、EVエコシステムを構築するため、今後よりいっそう積極的に連携が取られていくと考えられています。

バッテリー電気自動車(BEV)充電インフラ2020 年 MEMR 第 13 号の規制 (Kendaraan Bermotor Listrik) Berbasis Baterai、「KBLBB」) (「MR 13/2020」) では、SPKLU および SPBKLU 事業者の事業許可に関して次のように規制しています。

1. SPKLU 事業体によるインフラ開発にはプロバイダー枠組み、リテーラー枠組み、コーポレート枠組みに基づいて初めて実行することができ、それぞれの枠組みでSPKLU または SPBKLU の ID 番号と、実行許可が必要です。
1. プロバイダー枠組みでは、は独自に電力を生成し、それを KBLBB の消費者に販売する場合、電力供給者は事業領域の決定、統合電力供給事業許可 (Izin Usaha Penyedianan Tenaga Listrik、「IUPTL Terintegrasi/統合された IUPTL」)と SPKLU ID 番号を取得する必要があります。
2. リテイナー枠組みでは、電力販売者が PT PLN (Persero) またはその他の事業領域保有者から電力を購入し、当事業体に代わり電力を販売します。この枠組みでは、事業領域の決定、販売用電力供給事業許可(Izin Usaha Penyedianan Tenaga Listrik、「IUPTL Penjualan/販売用 IUPTL」)、および SPKLU ID 番号が必要です。
3. コーポレート枠組みでは、PLN またはその他の事業領域所有者のパートナーとしての事業体は、SPKLU ID 番号を持つことのみが必要です。一方、他の許可要件は、PLN または他の事業区域所有者が所有する許可で十分です。

2. SPKLU ビジネス
SPBKLU を実行する予定の企業は、SPBKLU ID 番号のみを持つ必要があります。
ビジネススキームの詳細は下記に記載しています。

さらに、SPKLU および SPBKLU の開発のライセンスは、エネルギーおよび鉱物資源部門のリスクベースのビジネスライセンスの実施における事業活動および製品の基準に関する 2021 年 MEMR 第 5 号の規制に基づいて促進され (「MR 5/2021」) 」)、SPKLU の事業分野の決定には地方政府からの推薦が必要です。現在、この推薦は、SPKLU の土地所有権証明書、または SPKLU の土地所有者との協業証明により代替が可能です。

A. インセンティブ

PR 55/2019 を支持して、インドネシア政府は、 EV の購入と使用を促すため税金等に関する優遇措置法案を可決しています。この規制に関して税制上においては、部品の輸入関税の軽減、非税制上の措置では輸出や研究開発への増資が挙げられます。 EV は、2021 年 10 月 16 日以降発効されている奢侈・贅沢品税 (PPNBM) からも免除され、EV所有者には追加の電気割引が付与、さらに夜間電気消費料も 30% 割引が適用されます。自動車所有に関する税の適用は、自動車が国の排出ガス基準を満たしているかどうかによって決まります。この基準では、EV はゼロエミッション車とみなされています。税に関する以外の優遇措置では、現在ジャカルタで実施されているナンバー規制政策など、電気自動車を特定の運転制限から免除する等の案も出ています。

また、政府はインドネシア企業が自力でEV部品を生産できない場合、既存の電気自動車の部分的解体(IKD – 不完全なノックダウン)等も許可しています。さらに、ローカル企業が自社で生産を拡大できるまで、完成した電気自動車(CBU – Completely Built-Up)の一時輸入許可も検討される等、政府はインドネシア国内に大々的に投資していくことが予想されています。そもそもの交通インフラ等の課題はありますが、国家主導の政策によりEVの普及は徐々に拡大してくと考えられます。

 

ここまでEV化について各国との違いからインドネシアの政策について述べてきました。

こちらの記事が皆様のお役に立てれば幸いです。